<近日中に刊行>

「弓野著」「人工知能時代の学びと創りの心理学」  ナカニシヤ出版

<本の内容_目次_紹介>

はじめにより

明治の初期より、日本は、先進国からの「学び」を重要視してきた。それは科学・技術領域のみならず、社会科学や人文科学、さらには芸術の領域にまで及んでいる。学校制度や社会制度もそれに含まれる。そして学んだ内容に日本人が得意な工夫や改良を加えて、優れた工業製品を産み出したり、理数系の高い学力を育てたり、民主的な社会を作り出すことに成功したりして、アジアの中では最も早く先進国の仲間入りを果たした。しかしながら昨今、中国や韓国等のアジア諸国が急速に近代化を進めるにつれて、日本の得意とする科学・技術や産業における優位は揺らいでいる。日本が今後世界の中で尊敬を受けつつ生き残るためには、従来からの教科書に忠実な「学び」のみでは不足する。仕事や人生を豊かにする新たな資質・能力の育成も欠かせない。それには近代科学・技術を創始し、現在も世界の先端科学技術を牽引する西欧先進国の教育の根底にある「創りの教育」に取り組む必要がある。

昨今の社会の進展は、従来と違うところがある。人工知能が、将棋や碁などの趣味の領域を超えて、人々日常の仕事や生活に大きな影響を及ぼし始めた。トラック・バス・自動車の自動運転、各種貨物の集配、現場や工場での作業、農産物の生産等は言うに及ばず、銀行の融資担当者、給与・福利厚生担当者、弁護士補佐、スポーツ記事ライター等が受け持っていたかなり高度な知的な仕事が人工知能に置き代えられ始めている。このことは、人工知能で置き換え可能な職種で働いている人々の失業や他業種への転換を強制し、さらにはそのような職種への就職を目指して学習に励んでいる若者の未来が閉じられることを意味する。日本の社会や学校・家庭で奨励されている「学び」を誠実に実行して高校や大学を終え、卒業後に社会に出て目指す職種で働こうとしても、その職種が消滅してしまっているのである。更にもう一つ、世界が短期間に解決しなければならない緊急な課題がある。地球の温暖化への対処である。温暖化に伴い、大暴風雨、山火事、山や北極海の氷やツンドラの解氷、新型ウィルスによるパンデミック等々が頻発している。人工知能時代に適応しつつ、これらの災難に対処するには、人の能力や人格を涵養する教育に新たな何かが必要となる。この本では、その何かを「創り」と呼ぶことにする。西欧先進国の教育には、この「創り」が含まれている。

 この本では、日本の教育の根幹である教科等の「学び」に「創り」を加えつつ、児童・生徒を励まし、人工知能社会や環境変化に対応できる人を育てる教育を提唱する。一人ひとりの教師がこれまでに築き上げてきた実践に、西欧先進国の教育に包含されている「創り」を加えるのである。学習指導要領に列記された多岐にわたる学習目標の理解とその実践には多くの困難を伴うが、1つの概念に集約される「創りの教育」は「創り」の意味するところを理解すれば、日々の授業を有意義に展開できるばかりでなく、さらにその評価視点も明確になる。この20年、日本人のノーベル賞獲得者が激増した。誇らしい限りである。しかし残念なことに、それらの獲得者は日本の学校・大学・大学院等で賞賛を受けつつ、賞に辿り着いた人は少ない。我が国では、新たな所産の産出に取り組んだり、新たな問題を解決したり、それに挑戦したりする態度の育成を、学校・家庭・社会が十分に奨励していないからであろう。これからますます興隆する人工知能と共存しつつ、さらに地球規模の大災害の解決を通じて、日本および日本人が尊敬されるためには、「創り」に着目した研究及び実践を欠かすことは出来ない。筆者は30年以上の研究と実践を重ねてやっと、本書に収めた「創りの教育」に辿り着いた。この教育に共感する研究者・実践者諸氏には、収めた内容をさらに発展させて、次世代に引き継ぐことを期待する。

最後に、授業を通じて概念地図法の有効性を実証してくれた妻のスミ子と本書執筆への動機づけを与え続けてくれた三人の子ども、綾、亜希、慧に心より感謝する。亜希は特技を生かして、本書の表題に相応しい表紙を完成させてくれた。

                   2020121

                   信州鳴沢自然郷にて

                   弓野憲一しるす